しかし、このA地主さんは良く来る。
話が1時間から時には2時間に及ぶこともある。それが毎週の事なのです。
夫は私の仕事を手伝いはしないけれど、時々店に出入りしている。
時には顔をあわせることもあるから、私が独り身ではないことは分かっているはず。
夫は、A地主さんと顔を合わせると(長居するな)というように、イヤな顔をして、まともに顔を合わせない。
そして愛想が悪い。
所が、A地主さんは全く意に介さない。
店を始めた頃の話だけれど、服装も立派な78歳位のある紳士が3度ほど訪ねて来て、私に話があると言う。「何でしょう」と尋ねると、
「私はマンション等を持っているが、息子にその管理を任せている。私の妻はもう亡くなりました。そこで、月々お支払いするので私の所に来てくれないでしょうか?
月50万円の給料で、退職金は3000万円出します」と言う。
ビックリした。(このおじいさん何を言っているんだろう!世の中にはいろんな事を言う人がいるものだ)
「私はこの仕事を始めたばかりで、これからも続けて行きたいのです。ですから、ご希望に沿うことは出来ません」と返答した。
「そうですか、残念です」と言ってその紳士は帰って行った。
そんな事があったから男性には警戒する。
所が、この大地主さんはそんな事は言わない。常に不動産の話がメイン。
そして不動産に関する事(税金も含め)知識が豊富で、知識不足の私には勉強になる事が多かった。
旭化成がお金持ちの方を対象に、不動産資産の運営方法や、税金対策の講演を開いた事があり、A大地主さんはこの時講師を頼まれ、税金について講演したことがある。
それ位税金の事に詳しい。
この地主さんの、1時間~2時間も話し込むのはうんざりだが、不動産や税金の話は為になる。と言う2つの矛盾した感情が私の中にあって、いつも複雑な気持ちになっていた。
A地主さんは何代も続く地元の方で、親戚も多い。
近所に住んでいる地主さんの親戚が、マンションを建てることになった。
その親戚の方はA地主さんを信頼していて、A地主さんに相談していた。
A地主さんは、旭化成のへーベルメゾン(賃貸マンション)を勧めていて、旭化成の営業の方を私の店に連れて来て紹介してくれた。
そのマンションの地鎮祭にも出て、その後の管理も当社は任された。
其の1年後、同じ敷地内にもう1棟建て、そこも管理することになった。
A地主さん自身も旭化成でマンションを建て、それも1から関わり管理した。
その途中で、当社のお客様にも、旭化成で建ててもらったりしたので、旭化成の営業マンさんとは親しくなったし、地鎮祭にもよく行った。
この頃は旭化成づくしだった。一棟管理も増え、私は益々忙しくなった。
こうしてA地主さんとの関係が深くなってくると、私の中ではありがたい気持ちと、
モヤモヤした気持ちを抱えてお付き合いをする事になった。