海坊主のような大男の所有者 2

今回は、一人で会うよりも男性の姿が側に有った方が良いと思ったので

夫に「一緒に行って欲しい」とお願いしたら、

「勿論いいよ」と快諾してくれた。

(夫は、言わないけれど、私がどのような対応をするのか興味がある様子)

前所有者の住所は千葉になっていた。海からそんなに遠くない所。

会社や工場・倉庫などが立ち並び、殺風景な場所で、毎日の生活の買い物等には不便そうだナーと感じる所だった。

前所有者の住まいは、そんな所の古い平屋の一軒家だった。

この様な場所に、あまり馴染みがなかったので、この環境全体の中に居ることに違和感を感じていた。でも、やっとたどり着くことが出来たのだから会わなければと思って、

「ごめん下さい」と声をかけた。

中から50代位の小柄な女性が出てきた。

来訪した目的を告げ、名刺を渡すと、一度中に入り再び出て来て、「どうぞ」と言われたので中に入った。

 

玄関からすぐの居間に通されたところの座卓に、海坊主のような、つるっぱげの体格の良い67歳位の大男が胡坐をかいて座っていた。

(前所有者は大男だ、私の夫はブロックを持つのも重い、と言うひ弱な人。私は夫よりもっと力はないし、大丈夫かな?池袋のマンションには木刀も飾ってあったし・・・。

この場は言葉と心理的な駆け引き。友好的な言葉を引き出せるよう、相手を立てながら、話をしようと思った。)

 

私は「初めまして」と言って、こちらの身分を伝えた。

すると男は開口一番「遅かったな」と言った。

我々が来るのが遅いと言っているのだ。

彼は、私がドアポストに挟んだ名刺を見ていたはず。

しかし、自分から連絡せずに、こちらが来るのを待っていたのだ。

 

「お住まいを調べるのに時間を取りました。お待たせいたしました」

運送業の社長さんをされておられたんですね」と言うと、

運送業で随分大もうけした。その儲けで不動産を色々買った。軽井沢に別荘も買った」

と言う。  

 

お金周りが良かったのは分かる。

この座卓も立派な黒檀で、凝った掘りがしてあり、女性がお茶を出してくれた茶碗も茶托も高価なものだった。

この古い壊れそうな家には似つかわない道具があちこちに置いてある。

私は「立派な調度品ばかりですね」と褒めた。

その後、男は税務署の悪口をひとしきり話した。

「税務署は情け容赦もない。次々に財産を差し押さえていく。こちらも自宅や所有物件を売りに出しては税金を支払って来たが、支払額に追いつかない。延滞税は膨らむばかりで、ちょっと待ってくれと話しても、(仕事ですから、税法に従っております)と取り合わない」

 

税務署には強い悪意を持っているようだ。やはり、最後は税金で苦労したのだろう。税務署に対する憎しみが言葉の中に、にじみ出ていた)

「税金のせいで、あれこれ多くの不動産を手放した。軽井沢の別荘も売った。最後に残ったのが池袋のマンションだ」

「それであんなに荷物が一杯なんですね」

「そうだ。みんな池袋のマンションに入れた。」

 

男は江戸っ子の気風があるように思える。さっぱりした性格のようだ。ハッキリした、竹を割った様な会話を好む人だろう。(ある意味単純)

しかし、相手の事が気に入らないと態度が変わり、頑固になり、機嫌が悪くなるタイプに思えた。注意して言葉を選ばなければ、と思った。

 

前所有者は「それでどうする?」と私に問いかけました。

前所有者には簡潔に回答しよう。男はクドクドとした理屈は好まない。一言でよい。

味付けは塩と砂糖だけ、余計な調味料は不要だ。