私は登記簿謄本を調べ、その所有者がなぜこのような事態になったのか?
その人の歴史と言うか、経緯等を考えるようになっていた。
姿形は分からないけれど、その人となりが、おぼろげながら掴めるような気がする。
(ある不動産を調べなければならない時は、まず始めに登記簿謄本を取り寄せます。所有者に間違いはないか?権利関係はどうなっているのか?等、把握しておかなければならないからです。登記簿謄本は、一般に公開されていますから、誰でも法務局でとることが出来ます。昔は法務局に出向いて取りましたが、平成19年から登記情報をオンライン請求で取得することが出来ます)
裁判所が行う競売と、税務署が行う公売と言うものがあります。
公売と言うのは税金を払えず、滞納した人の財産を国税や都税が財産を差し押さえ売却して税金を回収するというものです。
公売は競売と比べると情報内容も少なく、競売でいう三点セットのように詳しく内容を知る事は出来ない。
池袋から近く、ワンルームで33㎡の良さそうな物件があったので、それを取得しました。
登記簿謄本に記載されている住所には前所有者は居なかった。転居していた。
現地の建物のマンションの管理人さんに聞くと、
「たまに、一週間に一度位来られてますよ」と言う。
前所有者と連絡を取りたいと思い、ドアポストに私の名刺を挟んで、
「ご連絡をいただけますでしょうか。お待ちしています」と書いて、しばらく様子を見ようと待っていたが連絡がない。
仕方がないので、中の様子を知ろうと思い、いつもお願いしている知り合いの鍵屋さんに鍵の開錠をお願いした。
ドアを開けると中は荷物だらけであった。
「ワァー」と言う言葉しか出なかった。
大きな事務机・金庫・大量の書類・ソファー・大理石のテーブル・壁には神棚・木刀も飾ってあった。少し空いている空間をカニ歩きで通る位だ。
「まずいナー」という気がした。
大量の書類を見ると、この前所有者は運送業の社長さんだったらしく、仕事内容のものが多くあった。
また、株売買の書類も山ほどあった。前所有者はどのような経緯で税金を滞納することになったのだろう?と思いを馳せた。
バブルの時代仕事で多くの利益を出したのだろう。
株も空前の高値であった。儲けたお金を株に投資するのは簡単に想像できる。
株取引の大量の書類を見ると、前所有者も株に投資していたのだ。
しかし、その後株価は下落。
仕事で多くの利益を出した時、前所有者は税金が後からやって来る事を考えなかったのだろうか?
税金分をプールしておかなかったのだろうか?
納付期限を2ケ月過ぎると、2ケ月後からは14.6%の延滞税が加算される。
税金を支払うのは国民の義務であり、しかも国家権力だから銀行やサラ金よりも強力で、権力行使は手をゆるめない。ある意味、国税は一番怖い存在です。
当社が建物(不動産)の所有権は取得しましたが、残置されたこの室内の大量の荷物(動産)は、前所有者に所有権があり、勝手に処分することは、不法行為にあたります。
方法は2つ。
①前所有者からこの荷物の処分の同意をもらう。
②裁判で判決をもらう。
②は手間と時間がかかる。
まずは前所有者に会ってみよう。それがダメなら②の手続きをしなければならない。
荷物は一切触らずそのままにして、元のように鍵をかけ部屋を出た。
さて、前所有者は何処にいるのか?転居先を調べなければ会う事が出来ない。
区役所に行って我社が所有者となった登記簿謄本を見せ、「前所有者と連絡を取りたいので転居先を教えて欲しい」
と頼んだが、渋って教えてくれない。
「私の会社が新しい所有者で、前所有者の忘れ物の荷物の事で連絡を取らなければならない」と、粘り強く、各種の書類を見せ、詳しく事情を説明した。
やっと理解してもらえ、転居先を教えてもらった。
色々手順を踏まなければならなかったので、所有権取得してから1ヶ月半経っていた。