競売の占有屋 1

少し慣れてくると、雑な気持ちになる事がある。
家庭でイライラすることがあり、夫と口喧嘩したりしていました。
そんなこともあって、あまり気持ちが集中しないで入札した新宿のマンション。
中に入居者の方が居ました。それも占有屋。

民事執行法が2004年に改正され、占有屋さんはいなくなりましたが、法改正前は「占有屋」という人がお部屋に入り込み、お金目当てでお部屋を出ていかない。
という事例がありました。

私は、法律により解決できる場合は、それに則って話を進めますが、そう出来ない場合もあるのです。
この落札したマンションは、まさにそれだったのです。

詳細に調べる事なく、何となくやっちゃった。仕方がない。
どういう人が中に住んでいるか分からない。

マンションに行ってドアのブザーを鳴らした。

「ごめん下さい」とノックもした。反応がない。(留守なのかナー)
私は名刺の裏に、「この度所有者になりました。ご連絡をお待ちしています」と書いて、ドアに名刺を挟んで帰りました。

2~3日して、その方が(48歳位の男)事務所を訪ねてこられました。
もうヤクザさんまがいです。

大きな声で、いきなり「なんだ女か、男を出せ」と怒鳴ります。

「良く訪ねて来て下さいました。有難うございます。申し訳ないですが、男はいないんです。私が代表者ですからお相手させて頂きます。それに、そんな大きなお声でなくても聞こえますから、声を下げてくださいネ。」                 

男は椅子に座ったので、
「私は○○ですが、あなたのお名前を聞かせて下さい。」
男は「○○だ」と、自分の名前をぶっきらぼうに名乗った。

こんな大声で、怒鳴る男は今まで見たことがなかった。
ドラマでは「怖い!」体がブルブルとなるシーンをよく見るけれど、なぜか私は怖くもなく、冷静だった。

「どれ位あのマンションに住んでおられるのですか?」        
「2ヶ月だ」   
「そうですか。食費も掛かるのに、2ヶ月間お部屋を守ってくれてありがとうございます。今日来て下さって、お会いできて良かったです。早速ですが、お金の話をしましょう」

男はだんだん落ち着いて静かになって来た。
(男はお金目当ての来店である事は分かっていたから、金額としていくら出せるかを、私なりにすでに算出していた。買った時の価格・リフォーム費用・売却する時の価格・税金・この男性に支払う相場の金額。等々を総合的に判断し、金額を割り出していた)

「ご覧の様に、当店はあまり沢山のお金が有る会社ではありません。少しは○○さんにお渡し出来る金額は用意しています。それは××万円です。○○さんのご希望は幾らですか?」
男は考えているようで、言葉が出てこない。

「急なことでお考えがまとまらないと思いますので、ゆっくりお考えいただいて、ご面倒ですが、3日後又来て下さいますか?」

「うん、分かった」と言って、その日は帰って行きました。