52「千三つ」の青年営業マン(3の3)

「千三つ」とは、「千の内、本当の事は三つしか言わない」という事ですが、

 

不動産業界では

「話がまとまるのは千の内三つ」という事らしいです。

 

不動産で「千三つ」という言葉を使うとは知りませんでした。

 

藤森青年は、

「千の業者を回って良い物件に出会うのは三つだ」

と言います。

 

「僕は、一日2万歩は歩きます。

今回の取引は、其の千の内の一つに巡り合ったのです」

 

「エ~~~~!、そんなに営業で回るのですか?」

 

「はい。

空振りが多く、時には気持ちもめげることもありますが、

こうして御社の良い物件と出会えて、これからも営業を頑張らなければと

気持ちを新たにしている所です」

 

330軒の不動産業者を回って1つ良い物件と巡り合える。

 

良い物件と巡り合えない事の方が多いはず。

営業していて、嫌な事も多くあるでしょう。

殆どの事が、うんざりする嫌な事のはずです。

 

又、暑い日・寒い日・雨の日もあります。

 

ビックリです。

怠け者の私には想像出来ない、別世界のお話しです。

 

しかも、ただ営業しているだけで、物件と巡り合える訳ではないはず。

 

相手に対して好印象を持ってもらわないと、

物件があっても「お断り」と言う事もあるでしょう。

 

私も、感じの悪い、好みではない営業マンが来た時は、

「売り物件はないです。」

等、言います。

 

営業マンがかもし出す人柄、「この人なら」と思ってもらわなくてはならない。

 

私も、色々な営業マンと話しますが、会話の中で

 

どの様な事を考えて居るのか?

仕事に対する姿勢は?

人柄は?

信じてはいけない、軽い言葉はないか?

途中で潰れるような事がない相手か?

最後まで、信頼してタッグを組める相手か?

 

等々考えながら話をします。

 

千三つと言っても、

千回営業してもダメな人はゼロのまま、ダメでしょう。

気が遠くなる話です。

 

藤森氏と現地で打ち合わせして、用事が終わり、

車で現地に行っていた私は、帰り、途中までお送りします。と言ったら、

 

彼は、

「営業しながら帰りますので」

と言って必ず一人で帰ります。

 

彼は常に営業周りをおろそかにすることがない。

 

なぜそこまで情熱を掛けられるのか?

彼を突き動かしている、その思いは何なのか、

私は彼の心の中に、非常に興味を抱きました。

 

そして、藤森氏に尋ねました。

 

「藤森さん、あなたの夢は?」

 

「僕の夢は、独立して、デベロッパーとしてマンションを建てる事です。

大手の会社の中にいれば、後ろ盾があるし、仕事もしやすいですが、

 

それではいつまでも、会社の中の1つの駒に過ぎず、

また会社のノルマもあります。

会社の中の一つのパーツを担うのではなく、1から全体を組み立てたい。

 

1から手掛けることで、自身の思いを込めることが出来るし、

完成した時は、喜びもひとしおです。

やりがいがあります。

 

僕は、今はまだ銀行から多額の融資を受けることが出来ませんが、

 

信用を創り、自身で企画からすべてを組み立て、

マンションを販売してお客様に喜んでもらいたい。

そして、その町が5年後、10年後発展していくのは楽しみです。

お客様の喜びは、僕の喜びですし、大切な妻や子供への想いにも繋がります」

と話す。

 

「大きな夢ですね。でもあなただったら成し遂げられるわ」

「有り難うございます。そう言って頂いて嬉しいです」

 

彼は結婚していて、生まれたばかりの女の子のパパです。

 

「仕事が終わって娘の顔を見る時が幸せです」

 

待ち受け画面も、勿論笑顔の可愛い赤ちゃん。

この上ない優しいパパの顔をみせる。

 

 

予期せぬ、偶然の巡りあわせで、

私は藤森氏と一緒に仕事をすることが出来ました。

 

その後も順調に話が進み、

決済を済ませることが出来ました。

 

購入申し込みから契約まで2ケ月、それから決済まで3ケ月。

計五ケ月を要した取引でした。

 

売主様にも、相続税の申告及び納付期限に、十分間に合い、

安心し、喜んで戴きました。

 

今回の取引は、

私にはない、別世界のパワーを持つ青年と出会えたことで

成り立った仕事だと思い、感謝の気持ちです。

 

でも、私は彼の様な営業は出来ない、「千三つ」とは程遠い怠け者です。

 

つくづく彼の行動力には頭の下がる思いです。

 

しかし、身体には気を付けて下さいネ。

 

藤森さんの成功を祈っています。