あるオーナー様から、
「Aアパートを売って欲しい」と依頼がありました。
そのAアパートは当社の近くにあり、オーナー様とも長くお付き合いをさせて頂ています。
場所は新宿に近く、20坪。
4人の入居者さんがいます。
オーナー様が話されるには、
「銀行で聞いたが、○○〇万円で売れるでしょう」と言われたので
その価格で売って欲しい。」
「3ケ月で入居者さんには出て行ってもらいたい。3ケ月分の賃料は免除いたします。
その後、解体して、更地にして売りに出したい」
というご希望です。
私は
「価格はこれから調べますが、
3ケ月で入居者さんに明け渡してもらえるか否かは不透明です。
入居者さんは、生活の基本の場所としてお借りされている訳ですから、皆さんが素直に応じられるかは分かりません。
イヤだ、と思われる方がいれば、半年、1年と長引くかも知れません。
売却価格は安くなりますが、入居者さん有で売却、という方法もありますよ」
「いや、建物を壊し、更地にして売りたい。その方が高く売れる」
「そうですか、取り敢えず、土地の調査をして、当社なりの判断をお知らせ致します」
と話しました。
それから、オーナー様はご自分の家庭の事情を話し始めました。
私は役人で、現役時代は○○省で働いていました。
仕事一筋で、家庭の事は妻に任せきりでした。
子供は、息子は2人です。
昔は、親の期待通りに成長してくれなかった事に不満がありました。
下の息子は結婚しましたが、途中離婚し、中華料理店で働いています。
将来は自分の店を持ちたいと言います。
長男はSNSで2年程やり取りしていた女性と結婚しました。
始めは、アレ?と思いましたが、
昔とは違うのですね。
今では、結婚してくれて感謝の気持ちです。
しかし、私の定年前、長男が交通事故に遭い、2ケ月ほど入院しました。
足に後遺症が残り、杖をついています。
定年から10年になりますが、
私は、現役時代は、息子たちの話をじっくり聞いてやることはしませんでした。
そして、
妻が病気になり、喉頭がんで手術をし、声が出なくなり、今は筆談です。
思えば、私は今まで家族の事に思い至らず、仕事だけを頑張ってきました。
仕事を頑張る事、給料を家庭に入れる事が男の仕事で、
それが家庭の幸せに繋がると思っていました。
しかし定年後、家族に目が行くようになって、
家族の心がしっくりいっていないことに気が付きました。
家族に心を寄せることなく、
私が仕事・仕事ばかりで人生を走ってきた事がいけなかったのだと、
今やっと、気づきました。
家族の皆に申し訳ない。
今後の私の人生は、家族への贖罪だと思っています。
その為に、今持っている貯金と、アパートを売って、
長男には自分の家を買ってやり、
下の息子には店を持たせてやりたい。
そして、妻にも心穏やかな生活をしてもらいたい。
その為に、○○〇万円で売りたいのです。
○○さん(私の名前)宜しくお願いします」
「とても素敵なお話で、私も嬉しくお聞きすることが出来ました。
有り難うございます。
当方でも、アパートの調査をし、ご連絡させて戴きます」
オーナー様は帰られ、翌日私は物件の調査を始めました。
建蔽率・容積率・接道の状況・その他近隣の相場、等々調べました。