その5日後、又電話が掛かってきた。
オーナー様は勤務先で、省の事務次官とお酒を飲んだりされておられたとか、
それなりの地位におられた方の様です。
「セットバックの事は分かりました。
しかし、やはりあの価格で売って下さい。」
「お渡しした当方の調査書を、銀行さんに見て戴きましたか?」
「見せてません」
「どうして見せなかったのですか?」
「・・・・・・」
「当社の意見はあのレポートに示した通りで、お受けすることは出来ません。
どうぞ、他の業者さんにご相談されて下さい」
「ショックです」
と言って電話が切れた。
オーナーさんが、ご家族に対して贖罪の気持ちがあり、
ご自身で出来る限りの事をしたい、
それにはあの価格の金額が必要なのでしょう。
そのお気持ちはよく分かりますが、・・・
価格は自身の気持ちで決められるものではありません。
それを、ご自身の中でどうしても受け入れられない様子です。
オーナーさん所有の土地が、何か特別な付加価値があり、
買主が是非欲しいと言う土地なら別ですが、残念ながら普通の土地です。
民間の商取引を理解しておられるのでしょうか?
又、電話が掛かってきました。
「入居者さんに退室のお願いをしたいが、どうしたら良いか?」
「当社はお手伝いすることが出来ませんので、ご自身でお伝え下さい。
皆様には穏やかに話された方が良いですよ」
「分かりました」
又、電話が掛かってきた。
「昨、日曜日、手紙を持って皆さんのお部屋を訪ねました。1部屋だけご在宅で、
後はお留守でしたので、ドアに手紙を下げてきました」
「そうですか。当社はお手伝い出来ませんから、御報告いただかなくても良いですよ」
何だか私も冷たい表現になってきました。
しかし、お断りしたのに、
オーナー様も諦めない、粘り強い方です。
オーナー様は穏やかな話し方をされる方です。
「ありがとうございます」
「お世話になっています」
「申し訳ない」
等々、会話の中で頻繁に使われます。
しかし、ご自分が決断した事は頑なに揺るぎません。お気持ちは硬いです。
お役所の中では、粘り強い、そうした態度で、ご自身の要望が通ったかも知れませんが、
私はオーナー様の部下ではありません。
お役人気質のままなのかナー
申し訳ないと思いますが、私は私の判断で動きます。
その後、当社が入居のお世話をした方からお電話がありました。
「突然、オーナーさんから建物を取り壊すので、2月に退室してほしい。
賃料は3ケ月分は免除します。と手紙が来ました。
引っ越しは構わないけれど、3ケ月分の賃料免除だけでは費用が足らない。
オーナーさんの条件は一方的だ」
という。
「退室についての条件は、オーナー様のご判断なので、どのような条件かは
オーナーさんと話し合って下さい。
退室交渉については、当社はタッチしないと、オーナーさんにも伝えてあります」
と返事した。
その後、彼は東京都の「不動産相談窓口」に相談した様子で、又電話が掛かってきた。
都の担当者は
「3ケ月のお家賃免除は少なすぎる。
建物を壊すのにクリーニング費用を取るのはおかしい」と言われた。
その事をオーナーさんに伝えると、
「クリーニングして壊すので、クリーニング費用はご返却出来ません。」
と言われたと言う。
私は、「前回にもお話ししましたが、退室の条件についてはオーナー様と話し合って
決めて下さい。当社が決めることは出来ません」と伝えた。
やはり、双方の想いが、かなり食い違っているようです。