スナックのママの話 1 (初めての売買)

初めての売買のお話だ。

頭をクルクル働かせ、今まで勉強して覚えた知識を総動員して手順を考えた。

ご主人は塗装屋さんで、バブル時仕事は忙しく、順調で大きく儲けたらしい。

ご主人の景気の良い時にママは結婚したのだろう。

所が今、不景気の波がご主人に訪れている。

売買の経験のない私は少し不安だった。お客様の人生を左右する事を扱うのだから。

ママが持ってきた資料を基に、法務局・水道局・建築課等に行き調べ、契約についても勉強した。

私と同じ時期に不動産屋を始め、同じ不動産協会に所属する少し年上の女社長が、自宅の1階を事務所にして開業していた。

場所は自転車で数分の所なので、私の店によく遊びに来ていた。

売買の話をすると彼女は、「私も手伝いたい。売買をしたことがないし、勉強したい。手伝わせてください」と言うので、手伝ってもらうことにした。

(その後、彼女は私の助手の様にいつもついて来た)                        

一度家の中を見せてもらわなければならないのでご主人にお願いした。

(勿論友人の助手もついて来た)

物件の土地は65坪程で、建物は150平米程の家だった。

ママの夫はとても几帳面でまめな人らしく、家の中はきれいに整頓されていて、各部屋・台所もシンクの中もピカピカだった。

「お客様にはいつ見て戴いてもらっても良いです」と言って鍵を預かった。

物件の広告を作り、業者に配布した。

問い合わせもあり、見たいと言われた時は立ち会った。

ご主人は下請けさんに早く支払いたいという気持ちですから、出来るだけ広く広告を出し、多くのお客様に見てもらおうと考えた。

新聞にもチラシ広告を入れ、内覧日時を(土・日)に設定し、現地に来られるお客様に各部屋を案内したり、建物の説明をして対応した。

助手の彼女はいつも手伝ってくれた。しきりに「勉強になる」と言っていた。

私は責任があるし、ミスをしてはいけないと思い、(手順は良いか、見落としはないか)と、寝る前にもおさらいする、緊張した毎日だった。

何しろ二人共初めての事で、体も頭も大忙しの日々だった。

1ヶ月位して、「買いたい」と言う人が現れた。

買主さんは(一度見た人だが)もう一度家を見たいと言うので、現地を案内した。

買いたい気持ちは変わらなかったようだ。(ヤレヤレ、良かった)