60 忘れられない賃借人(7-1)

会社で買った未入居の店舗を、

カレー屋をしたいので、借りたいというご夫婦が来ました。

 

1.5キロ位離れた別の所でカレー店をしていたが、

ビル建て替えの為、

そこを立ち退くことになったらしい。

 

その人に貸すことを決めました。

 

しかし、賃借人は奥様の名で、彼と母親(義理)が連帯保証人になった。

(これには事情があり、後に説明)       

 

以前のお客さんも引き続き来てくれたり、新しいお客も来て、

夫婦2人でまあまあ心配なくやっている様子。

 

店主は48歳。彼は家賃をいつも当社に持参してくれる。

(店と当社はそんなに遠くない)

 

そんなこともあって、暫く話をして帰る。

カレー屋さんに至った話もしてくれた。

 

元々彼は杉並の地主の息子で、自宅のマンションは、

住まいと賃貸の部屋がある3階建てのビルです。

 

父親が清水建設で建てたらしい。

 

バブルの頃、彼はゴルフ会員権売買の会社の社長をしていて、随分儲かった様子。

 

会社の経営も順調で、しかも土地を持っているから

 

「銀行がお金を借りてくれ、いくらでも出す」と言われ、

車も、2~3台持っていて、ベンツ・ポルシェを乗り回して

派手な生活をしていたと言う。

 

今の奥様とは、その頃知り合い結婚したとか。

 

所が、バブルがはじけると、お決まりの様に右肩下がり、

 

彼は会社を潰すだけではなく、

それ以上に、マンション・土地を差し押さえられ、

 

「こんなになってしまいました」と言う。         

 

彼の父親は亡くなっていて、

母(義理)姉2人(結婚して他で暮らしている)には

バカ呼ばわりされ、

肩身の狭い思いをしているという。

 

母(義理)とは、マンションの別々の部屋で暮らしているが、

母はきつい人で、彼にも奥さんにも良い顔をしない。

 

父親が亡くなった時、彼が相続した土地200坪は競売にかけられ

すでに他人の名義になっている。

残っている不動産(ビルやその他の土地)は母親名義となっている。

 

マンションの(敷地権化されていない)部屋3室だけは彼名義で残っている。

が、これも差し押さえられている。複雑な状況だ。

 

滞納額は、当初2000万位だったが、延滞税で膨らみ、

今では1億3000万ぐらいになり、

国税に差し押さえられ請求されている。

 

「この先どうなるのかナー」

と彼は深くため息をつく。

 

「どうしたら良いか?」

と何度も相談を受けるが、

 

こんなに大きく膨らんだ金額にビックリするだけで、

私には返す言葉もない。