その次、彼がお家賃を支払いに来た時、
「近くの不動産屋3件に頼んだが、
荒れたお部屋を見て、登記簿を見てビックリして断られた」
「どうかお願いです。助けてください」と頭を下げる。
私は困った。
飯田さんの内情も、病気の事も知っている。
一生懸命頑張って働いている事も知っている。
家賃は遅れても、何とか支払おうと誠実に努力している事も知っている。
(しかし、このまま切り捨てようか?と悩む)
当社はただの大家だ。
家賃を入れてもらえばそれで良い。
保証会社にも入っているので、家賃を支払わなければ、
保証会社が追い出してくれる。
そういう関係だから・・・
私が「難しいわね」と言ったら、
飯田さんはその日は諦めて帰って行った。
この話は夫にも話していたが、
「あまり深入りするな。君子危うきに近寄らず。だ
面倒な事になって、君に被害が及ばないか心配だ」と言う。
次に来た時も同じ。
飯田さんにとっては必死の思いなのだろう。
とうとう、私は根負けして、
「やるかどうかは分からない。
部屋を見てみるから鍵を置いて行って。
未だ決めた訳ではないから、喜ばないで。
賃貸借契約には登記簿謄本を添付しなければならないから、
お客さんの方で逃げ出すかも知れないわよ」と話した。
「有り難うございます」と彼は嬉しそう。
(まだ決めた訳じゃないから・・・・)
私はリフォーム業者と一緒に見に行った。
広さは約42㎡、2部屋とキッチン、バストイレ別のお部屋だ。
部屋の仕様が昔風で、しかも長く空き部屋だったから、色々手を入れなければ駄目だ。
エアコン・照明・給湯器は取り換え、和室は洋室に、クロスも張り替え、建具にも問題あり、
ざっと130万は軽く超えそう。
飯田さんにそんなお金がある訳ない。
と思いながら、
一応リフォーム屋さんに器具の品番とか写真に撮ってもらい、
クロスの寸法等を測ってもらっておいた。
暫くして、家賃を支払いに彼が来た。
「どうでした?」
と、心配そう。
「現状のままだと賃料が安くても、誰も入居したいと思わない。
奇麗だナー、借りたい、と思ってもらわないとネ。
それに、重要な事は、告知内容にも納得してくれる方でないと」
「工事費用は130万は軽く超えます。準備出来る?」 ㉘
「そんなお金ないです。
入居してもらった家賃から取って下さい」
「どうするか考えるから、5日後に来てちょうだい」
飯田さんは5日後に来た。
私は次のような条件を出した。
工事の見積もりは出てないから、金額はまだ確定していないけれど、
まず
・工事費用はこちらで立て替える。
・入居者が決まったら、6ケ月間の賃料は当社が全額受け取る。
(それでも工事費用はまだ残るから)
・7ヶ月目からは、賃料の半額を返済に回し、賃料の半額はあなたの手元に入る。
(少しでも早くお金が手元に入った方が良いでしょ)
・工事代金全額払い終わったら、賃料はすべてあなたに入るようになる。
・内装については一任する。
・賃料についても一任する。
こういう条件でどう?
「有難うございます。
嬉しいです。
それで良いです。
お願いします」
二つ返事だった。
彼に説明した内容を書類にし、サインしてもらった。