66 忘れられない賃借人(7-7)

その訴状が義母の手元に届いた頃、

 

代理人であるという男から弁護士に連絡があった。

 

その代理人の話によると、

「義母は高齢であるので、裁判所には行けない。請求の200万円はお支払い致します。しかし、分割にしてほしい」

という内容だったらしい。

 

「分割で良いですか?」

との問い合わせが弁護士からあり、

私はOKした。

 

弁護士と代理人は話し合い、1年かけて支払うという、合意文書が交わされた。

 

取り敢えず、合意できて良かった。                          

 

工事の方は先に進め、荷物は全部搬出し、スケルトン状態になった。

 

アルコール中毒になっていた飯田さんの奥さんは、

夫の死から1ケ月半後、亡くなられました。

 

飯田さんが元気な頃、よく話してくれていたが、

茶店をしていた奥さんとは、バブル時代の景気が良い時に結婚し、

海外のゴルフ場で遊んだり、

高速で、自分の車が追い抜かれたら悔しいのか、

ディーラーに

「○○の車より早いのを持ってこい!」等と電話して威張っていたそうだ。

一時は楽しく、幸せだった様子。

 

事業が傾いてからの彼は悲惨だ。

 

借金まみれになり、二人とも、生活も精神的にも苦しい思いをした事でしょう。

自身の資産や不動産も失い、税金の滞納額も大きく膨らみ

身動きできない状況になってしまった。

 

こうした場合、

妻は離婚するケースが多いが、彼女は離婚せず二人でお店を頑張って、

 

最後まで、落ちぶれた彼の側に居て、

 

彼が亡くなり、

 

すべての力が抜け落ちてしまったのでしょう。

 

結婚し、子供が出来た息子は離れた所に住み、

 

彼女は一人、夫の遺骨の前でウイスキーを片手に、夫に話しかけていたのかも知れない。

 

そして夫の後を追うように、彼女も亡くなった。

 

彼女が自身を律することが出来なかった事は、残念ですが、

 

それでも、お二人は仲の良いご夫婦でした。

 

あちらでも、きっと仲良く手をつないで、二人で笑って楽しくしていると思う。

 

飯田さんの話が長くなりましたが、

私にとっては忘れられない賃借人になりました。

 

16年のお付き合いでした。

お二人のご冥福をお祈り致します。                    

 

 

 

さて、会社としてはこれからが始まりです。

 

コロナ禍を経験した今の時代、新宿のこの場所は、店舗より事務所の方が良いと思い、

事務所使用に改装しようと思う。

 

店舗だったお店の、厨房の設備・大きな冷蔵庫の撤去・テーブル・イス等々、

搬出も大変でした。

少し大きな音を出すと、すぐ管理人が飛んでくる。

「やりにくい」と工事人がぼやいていた。

 

ケルトン状態の現状を見るとダクトや不要な配線が一杯。

このビルの警備上必要な配線、ビル自体の吸排気設備等もある。

 

どれを撤去してどれを残さなかければならないか、皆目見当がつかない。

ファンコイルも古いので取り替えなければ・・・

管理会社や、それぞれの専門の工事の人に聞かなければならない。

 

管理人は、ビルの空調関係を独占している業者一社を教えてくれた。

大きな会社で、悪い会社ではないが、独占企業で値段もバカ高い。(どうして?と思うが、仕方がない)

 

これから又、色々決断しなければならない事が多そうです。

65 忘れられない賃借人(7-6)

正月の松の内が明けて、奥さんから電話が掛かってきた。

 

「夫が、12月30日に亡くなりました。家族で葬儀を済ませました」

 

私は、翌日香典を持ってお線香をあげに行った。           

彼女は憔悴しきっていた。

 

「お酒を飲んでいるんじゃない?」彼女は頷いた。

 

「あなたがしっかりしないとご主人が悲しむでしょ。アルコールは控えてね」   

 

「はい。」

 

 

 

「アノー、・・・・・・・・お店の事は出来ません。すみません。宜しくお願いします」

 

と思い詰めていた事を一気に言葉にしたように早口で言った。

 

彼女は頭を下げたまま私の顔を見ない。

 

エー、困った。

 

店は営業当時のまま、鍋も流しにつけてあるし、

大きな冷蔵庫の中には食材料があり、

 

テーブル・椅子・食器等はそのまま。

 

元気なら明日から開店できる状態だ。

 

(これ、どうするの?

 

アルコール依存症になっているこの奥さんには無理だよね。)

 

私は頭痛がしてきた。          

 

 

連帯保証人の、彼の義母は再婚当時から宗教にはまっていて、

年季が入っていると聞いている。

 

義母は亡夫から相続した多額の財産・不動産や賃料収入のお金があるが、

その一部を献金しているらしい。

 

現在、89歳だが病気もなく元気にしている。

週5日位、教祖様の身の回りのお世話をしに通っていて、

何事も教祖様に相談し、指示を仰ぐらしい。 

(義母は高齢だけれど、教祖様は義母より1つ上らしい。

お世話をする方もされる方も高齢で大変。)

          

義理の息子夫婦を、

「信心しないから、病気になるんだ」と常々怒鳴っていたらしい。

(信心しないから、という言葉はスナックのママからも聞いたことがある。と思い出した)                           

 

しかし、義母は、契約上連帯保証人で、今や義母しか居ないのだから、

当方は、義母に請求するしかない。

 

お店に行って写真を何枚も撮った。

(後で必要になるだろうと思って)

 

業者を呼び、荷物を全部運び出し、スケルトン状態にする費用を2社に見積ってもらった。

 

管理人がいるビルなので、

管理人とうまくやってくれそうな業者にしたい。

 

見積もり金額が出た。

未納賃料も計算して、全体の金額を把握する事が出来ました。

保証金も預かっているけれど、未納賃料・撤去費用をカバーするには、とても間に合わない。

 

私は義母と3度ほど会っているが、

 

心配事があると教祖様・税理士・弁護士等に相談するしっかりした所がある。

顔見知りであるし、なるべく長引かせないで片付けようと思ったので、

弁護士に依頼することにした。

 

契約書・連帯保証人に関する資料・写真・工事見積書等、必要な書類を揃えて、

知り合いの弁護士にお願いした。                   

 

弁護士は訴状を裁判所に提出した。

64 忘れられない賃借人(7-5)

飯田さんの心臓の病気は一進一退だった。

足が腫れてお店の立ち仕事も辛いようだが

 

「お店の収入がなければ生活できない」と言って彼は頑張っている。           

 

家賃を持参してきたとき、

彼は

「肝臓にガンが発見され、手術しなければならない」と話す。

心臓から、ガンと彼も満身創痍だ。

 

手術は成功し、彼は又店に戻ってきた。

明るく働いている。

 

「馴染みのお客さんも心配してくれて、再開店を喜んでくれた。」

 

お店で働くことが彼の心の支えのように思える。                          

時には奥さんも私の会社に顔を出すことがある。            

 

そんなある日、

わたしも大腸がんになりました。と言う。

(エーお二人とも‥・・・)

 

奥さんの方はすぐ手術して、その後は再発もなく順調らしい。

良かった。

 

飯田さんの方は大変ながらも小康状態が続いた。

 

しかし、病院から

「ガンの、ある数値が非常に上がっている」と言われたらしい。

 

「自分ではそんな自覚はない。

器械が間違っているんじゃないですか」と医者に言っら、

 

お医者さんから

「こんなに数値が上がっているのに、元気なのはおかしいナー」

と言われたらしい。                

 

此の頃から彼は店を休む日も多くなり、家賃の全額を支払えなくなっていた。

病院の費用も大変なのでしょう。

 

「すみません。」といつも謝っていた。

 

「最近、家内は家でアルコールばかり飲んでいる。

もし、私に何かあったら・・と、

今後の事を心配しているようだ。

やめろ、と何度言ってもやめない。

 

この間なんか救急車で運ばれたんだ。これで2度目だ。」と言う。

 

彼も奥さんも辛そうだ。   

 

間もなくして、

 

ガンが転移している事が分かり彼は再入院した。

今度は危なそうだった。

 

その後、治療の手段が無くなったのか、

自宅療養に変わった。

 

お医者さんも手の付けようがない状況と判断したのでしょう。

あまり長くないかもしれない。

と私は思って、お見舞いに行きました。

 

彼はリフォームしたあの部屋で、ベットに寝ていた。

(息子夫婦は子供が出来たので、引っ越していた)

 

3階で見晴らしがよく、

天気の良い日は遠くに富士山が見える部屋です。

 

「飯田さん景色の良い所に寝てますね。

少しやせたけどお元気そう」

 

彼はやつれて体も細くなっているけれど、よく話してくれる。

 

「お口も達者でよかったわ」 

          

「色々お世話になり有り難うございます。家賃も払えなくて申し訳ございません。

連帯保証人の母親がお金を持って

いますから、請求してください。」

 

「早く元気になって、お店で働いて自分で払ってちょうだい。

可愛いお孫さんの成長を見守ってあげなくちゃ」

と言って二人で笑った。

 

奥さんは側にいたが一言も話さなかった。

 

「じゃあ、又来るわね」

お見舞いの封筒を置いて外に出た。         ㉚

 

奥さんがドアの外迄見送りに来て、

 

「あの人もう駄目なんです」と目を潤ませていた。

 

 

「分かってる。

 

二人でよく頑張ったじゃない。

側にいてあげて、

手を握ってあげるだけで良いのよ」

 

「はい」と彼女はうなずいた。目には涙が・・・。

 

私は肩をたたいて、手を振った。

 

それ以上の事は言えなかった。

クリスマスイブの日だった。

63 忘れられない賃借人(7-4)

夫に話すと、

「えー!引き受けたのか」

 

「大きな問題がある部屋なのに、やめとけばよいのに、

大丈夫か?

心配だよ。

工事代金を完済する前に、国税が債権回収を実行したら、こちらは損失が出るんだよ。

彼からは何も回収は出来ないよ。いいのか?」

 

 

「うん。

そのリスクがある事は分かっている。

飯田さんが苦しい中で頑張っている事に、私の気持ちが負けたのネ。

 

工事代金は私の貯金から出して、損失が出たら私が被るつもりなの。

 

心臓の病気になり、家賃を持参するたび、

そんな彼を見るのが私自身辛くなって来たの。

 

そりゃー、お金に困り、心労が重なって、こんな状況を招いたのは

飯田さん自身だから、

見捨てることも出来るけれど・・・

彼を助けるのは、本当は身内の人よね。

大家の私じゃない事は分かっている。

 

でも、飯田さんは大家を騙そうとしているのではなく、

何とか働いて家賃を払おうとしている。

 

落ちぶれてしまい、病身になり、それでも頑張って生きようとしているその姿、

 

生きることに対しての誠実さに私は負けたの。

 

私は君子じゃないから、危うきに近づいたのネ。」

 

「そうか、そこまでの気持ちなら、もう何も言わないよ。

でも、そんな君の優しい気持ちは好きだよ。

僕は、彼を助けるのではなく、君の気持ちを大事にしたいと思う。

工事代金は僕がだすよ。」

 

と夫は言った。

 

「いらないわよ。私にも貯金はあるから。」

 

「まあ、どちらでもいいよ、どうせ我が家は財布が一つだから」

 

「決める前に相談しなくてごめんネ。

あなたからは必ず反対されると思ったから。」

              

「いいんだよ」

 

 

早速改装工事に入った。

 

お部屋は和風だったから洋風にして、間仕切り引き戸は今風のオシャレなのに取り換え、

部屋は壁紙でアクセントをつけた。

 

使えるものは使い、エアコンなどは新しくした。

ちょっと素敵なお部屋になった。

 

飯田さんに見せたら、

 

「見違えた。

募集賃料より高く貸せるんじゃないか」と言う。

 

私は彼に言った。

 

「飯田さん、このお部屋の登記簿謄本は、

他の不動産業者も手を出したくないビックリする内容だという事は、

誰よりもあなたが一番良く知っている事でしょ!

 

もし、国税が債権回収を実行に移した場合、

お客様に迷惑がかかります。

 

国税の債権回収が何時になるか分からないけれど、

 

もし、その時が来た場合、

 

私は

貴方を救う事は出来ません。

 

貴方の現状のつらい立場は理解しますが、

私はあなたを見捨てて、賃借人さんを守ります。

 

この事は、貴方もよーくよーく承知して、覚えておいて欲しいことです。

その時は、覚悟して甘える気持ちは捨てて下さい。

 

このお部屋の募集内容は、お客様に正確に告知しなければならない事です。

 

その事を考えれば、

この価格でなければ私は受けられません。

 

この賃料が不満なら、私は手を引きます。どうします?

 

と言ったら彼は

 

「はい、分かりました」と、すぐ欲望を捨てて納得した。

 

(少しでも収入が欲しい気持ちはわかるが・・・状況はそんなに甘くない)        

 

工事が仕上がり、早速募集をした。

 

相場より安く設定してあるので、問い合わせは多くあったが、

内見する前に告知し、それから内見してもらった。

 

内見一人目の若いカップルが、早速申し込みたいという。

 

(お部屋はおしゃれな内装になっているので、〈自慢じゃないけれど〉若い方なら

見れば気に入ってもらえると思っていた)

 

申し込み時点で再度物件の事情をよくよく承知してもらった。

(部屋で誰かが亡くなった、という事故物件ではなく、幽霊は出ませんよ。と伝えた。)

 

契約書にも記載し、

承諾書も取り交わし、十分納得してもらってから契約した。

 

その後も家賃が相場より安いので、問い合わせは多かったが、

お断りをしなければならなかった。

 

断った相手は残念がっていた。

 

入居頂いたカップルには2年半借りて戴いた。

 

その次の入居者もカップルだった。

1年半で出たが、転勤だという。

 

「ここは良かった。戻ってきたら又お願いしたい」と言われた。    

 

次の募集はしなかった。

 

飯田さんの一人息子が結婚し、二人でその部屋に住みたいという。

彼は息子から家賃をもらうそうだ。

 

結婚というおめでたい話でこのお部屋の募集は終わった。

ヤレヤレ良かった。

 

賃料から工事費を支払い、そのあとは彼の収入になった事は感謝された。

 

私も解放された。

 

「もうコリゴリ、次回は面倒見ないわよ。」

 

と内心思った。

62 忘れられない賃借人 3

その次、彼がお家賃を支払いに来た時、

 

「近くの不動産屋3件に頼んだが、

荒れたお部屋を見て、登記簿を見てビックリして断られた」

 

「どうかお願いです。助けてください」と頭を下げる。

 

私は困った。

飯田さんの内情も、病気の事も知っている。

一生懸命頑張って働いている事も知っている。

家賃は遅れても、何とか支払おうと誠実に努力している事も知っている。

 

(しかし、このまま切り捨てようか?と悩む)

 

当社はただの大家だ。

家賃を入れてもらえばそれで良い。

 

保証会社にも入っているので、家賃を支払わなければ、

保証会社が追い出してくれる。

そういう関係だから・・・

 

私が「難しいわね」と言ったら、

飯田さんはその日は諦めて帰って行った。

 

 

この話は夫にも話していたが、

「あまり深入りするな。君子危うきに近寄らず。だ

面倒な事になって、君に被害が及ばないか心配だ」と言う。

 

 

次に来た時も同じ。

飯田さんにとっては必死の思いなのだろう。

 

 

 

とうとう、私は根負けして、

 

「やるかどうかは分からない。

部屋を見てみるから鍵を置いて行って。

 

未だ決めた訳ではないから、喜ばないで。

 

賃貸借契約には登記簿謄本を添付しなければならないから、

お客さんの方で逃げ出すかも知れないわよ」と話した。

 

「有り難うございます」と彼は嬉しそう。

(まだ決めた訳じゃないから・・・・)

 

私はリフォーム業者と一緒に見に行った。

 

広さは約42㎡、2部屋とキッチン、バストイレ別のお部屋だ。

部屋の仕様が昔風で、しかも長く空き部屋だったから、色々手を入れなければ駄目だ。

 

エアコン・照明・給湯器は取り換え、和室は洋室に、クロスも張り替え、建具にも問題あり、

ざっと130万は軽く超えそう。                    

飯田さんにそんなお金がある訳ない。

 

と思いながら、

一応リフォーム屋さんに器具の品番とか写真に撮ってもらい、

クロスの寸法等を測ってもらっておいた。             

 

暫くして、家賃を支払いに彼が来た。

 

「どうでした?」

と、心配そう。

 

「現状のままだと賃料が安くても、誰も入居したいと思わない。

奇麗だナー、借りたい、と思ってもらわないとネ。

 

それに、重要な事は、告知内容にも納得してくれる方でないと」

 

「工事費用は130万は軽く超えます。準備出来る?」             ㉘

 

「そんなお金ないです。

入居してもらった家賃から取って下さい」

 

「どうするか考えるから、5日後に来てちょうだい」    

 

飯田さんは5日後に来た。

 

私は次のような条件を出した。

工事の見積もりは出てないから、金額はまだ確定していないけれど、

 

まず

・工事費用はこちらで立て替える。

・入居者が決まったら、6ケ月間の賃料は当社が全額受け取る。

   (それでも工事費用はまだ残るから)

・7ヶ月目からは、賃料の半額を返済に回し、賃料の半額はあなたの手元に入る。

(少しでも早くお金が手元に入った方が良いでしょ)

・工事代金全額払い終わったら、賃料はすべてあなたに入るようになる。

・内装については一任する

・賃料についても一任する

 

こういう条件でどう?

 

「有難うございます。

嬉しいです。

それで良いです。

お願いします」

 

二つ返事だった。 

 

彼に説明した内容を書類にし、サインしてもらった。

61 忘れられない賃借人(7-2)

国税は国家権力だから手心は加えない。

自己破産をしても、非免責債権の税金は逃れることは出来ず、

支払わなければならない。

消費者金融よりも怖いです。)

 

初期の2000万位の時に、

お母さんが分割でも良いから少しづつ払っておけば良かったのに・・・。

 

と私は思うが仲の悪い義理の親子、

 

あれこれ言う立場ではないし、

何とか出来る状況は過ぎてしまって、

もはや、どうにも出来ない深刻な状況になってしまっているので、

 

「そうなの」としか言えない。

 

しかし、店ではよく働いている様子だし、

奥さんと2人一生懸命だ。

家賃もしっかり入れてくれている。               

 

彼(飯田さん)は家賃を持参するついでに、大家が不動産屋だから何かと心配事を話す。

 

国税から「こんな手紙が来た」と見せる。

 

国税の職員が来て「公売にかける」と言われた。等、

 

しかし、彼とすれば何を言われても何もできない。

「ない袖は振れぬ」という状況だ。        

 

国税は早くこの問題に決着をつけたい様子はありありだけど、

 

国税がどうしても動けない権利関係が登記簿謄本の中にある。

(詳しくはかけないが・・)

 

国税としても、何ともならない事案で、ジダンダ踏んでいるのが

登記簿と、国税とのやり取りで、聞き取れる。

 

当初、彼が店を借りたいと来た時、賃借人は奥さんで、彼と義母が連帯保証人として

申し出た。その時、義母の登記簿謄本を持って来た。

義母の土地、家屋の登記簿謄本はきれいなもので、義母はかなりの不動産の所有者で、問題は全くなかった。

契約者が奥さんである事に、少し違和感も感じたが、

彼と義母が連帯保証人でもあり、奥さんと連帯して責任があり、義母には多くの不動産所有があるので、私はその違和感をスルーしていた。

 

この時点では、彼にここまで多額の税金の負債があるとは思わなかった。

飯田さんが契約者になれば、彼の謄本も私は調べるでしょうから、私は断る事を

考えたかも知れない。

 

今思えば、飯田さんは会社もしていたのだから、その辺りの事はよく考えていて、

契約できるような環境造りをして来たのだと思う。

義母の謄本はキズ一つない奇麗なものですから。

契約には義母も来て、連隊保証人として印鑑証明書を出し、実印で捺印した。

 

それにしても、今になって、よく自身の事をペラペラ話すものだナー。

私は聞くだけで、何もできないのに・・・・。

 

その後、義母とは、契約時よりももっと関係が悪くなっていく。

 

 

義母は70代半ばだけれど元気にしている。

彼は義母の財産は放棄すると言っている。

 

(相続すると、すぐさま国税が債権回収に入る。

国税は相続してもらって滞納税を回収したいでしょうから・・・)

 

奥さんと一人息子は母親の養子になっているので、

母親の財産はその二人に行くことになる。        

 

そんな状態が10年程続き、心労もあって体を壊したのか、

彼(飯田さん)は心臓を悪くした。

 

20日程、入院もした。

(この頃は、義母との関係は益々悪く、彼の入院費の無心も断っていた)

              

退院した彼から相談を受けた。

 

「自分名義の空いている部屋を貸すことは出来ないだろうか?」と、

 

病院にも通うようになったし、お金もかかる。

 

お店も休む日があり、

妻一人だけでは店は出来ない。

 

「収入も減るので、家賃が入れば助かる」という。

 

彼にとっては必死の頼みだという事は分かる。

 

しかし、私は彼のマンションの登記簿謄本の内容も知っているが、

ガチガチに差し押さえられている。

 

入居するお客様には、お部屋について告知しなければならない事もある。

 

しかも、お部屋は放ってあるので、荒れて貸せる状態ではないだろう。

関わりたくないのが本音だ。

 

「お母さん所有のお部屋は、近くの不動産屋さんに頼んでおられるでしょ。

そちらに頼んだらどう?

私は遠慮したい」

 

彼はその時は諦めた。           

60 忘れられない賃借人(7-1)

会社で買った未入居の店舗を、

カレー屋をしたいので、借りたいというご夫婦が来ました。

 

1.5キロ位離れた別の所でカレー店をしていたが、

ビル建て替えの為、

そこを立ち退くことになったらしい。

 

その人に貸すことを決めました。

 

しかし、賃借人は奥様の名で、彼と母親(義理)が連帯保証人になった。

(これには事情があり、後に説明)       

 

以前のお客さんも引き続き来てくれたり、新しいお客も来て、

夫婦2人でまあまあ心配なくやっている様子。

 

店主は48歳。彼は家賃をいつも当社に持参してくれる。

(店と当社はそんなに遠くない)

 

そんなこともあって、暫く話をして帰る。

カレー屋さんに至った話もしてくれた。

 

元々彼は杉並の地主の息子で、自宅のマンションは、

住まいと賃貸の部屋がある3階建てのビルです。

 

父親が清水建設で建てたらしい。

 

バブルの頃、彼はゴルフ会員権売買の会社の社長をしていて、随分儲かった様子。

 

会社の経営も順調で、しかも土地を持っているから

 

「銀行がお金を借りてくれ、いくらでも出す」と言われ、

車も、2~3台持っていて、ベンツ・ポルシェを乗り回して

派手な生活をしていたと言う。

 

今の奥様とは、その頃知り合い結婚したとか。

 

所が、バブルがはじけると、お決まりの様に右肩下がり、

 

彼は会社を潰すだけではなく、

それ以上に、マンション・土地を差し押さえられ、

 

「こんなになってしまいました」と言う。         

 

彼の父親は亡くなっていて、

母(義理)姉2人(結婚して他で暮らしている)には

バカ呼ばわりされ、

肩身の狭い思いをしているという。

 

母(義理)とは、マンションの別々の部屋で暮らしているが、

母はきつい人で、彼にも奥さんにも良い顔をしない。

 

父親が亡くなった時、彼が相続した土地200坪は競売にかけられ

すでに他人の名義になっている。

残っている不動産(ビルやその他の土地)は母親名義となっている。

 

マンションの(敷地権化されていない)部屋3室だけは彼名義で残っている。

が、これも差し押さえられている。複雑な状況だ。

 

滞納額は、当初2000万位だったが、延滞税で膨らみ、

今では1億3000万ぐらいになり、

国税に差し押さえられ請求されている。

 

「この先どうなるのかナー」

と彼は深くため息をつく。

 

「どうしたら良いか?」

と何度も相談を受けるが、

 

こんなに大きく膨らんだ金額にビックリするだけで、

私には返す言葉もない。