ある日従業員が左手に大きな包帯を巻いて帰って来た。
「どうしたの?大きな包帯をして骨折でもしたの?痛々しいわね」と言うと、
彼は「医者で小指を切って来たんだ。」と言った。
とたん、私の頭の中は彼の言葉を理解しようとパニックになった。
(医者で小指を切る)どういう事態を考えられるか?
小指が化膿したのか?怪我で切断しなければならなくなったのか?
彼は金融業だ。やくざ映画であるように、小指を献上する?まさか!
彼は続けた。「医者だと麻酔をして指の切り口を綺麗に切ってくれるんだ」
「エ❕ あ、そうなの。それは大変だったわね」
「社長も喧嘩で足にボルトが入っているんだ」
「エ❕ 社長も❔ 二人とも大けがしたんだ。早く元気になってね」
「ありがとう」
私はビックリした。カルチャーショックを受けた。
彼は昨日まで指を怪我した様子はなかった。
私の社会進出はいきなりこんな現実と遭遇するなんて、暫くその事は頭の中から離れなかった。
従業員はどうして指を切らなければならない事態になったのだろう。
色々想像したが分からない。従業員に聞く勇気もなかった。
私の今迄の人生の中で、自ら指を切るなんて聞いたことがない。医者は闇の医者かな?・・
夫に話すと、彼もびっくり、金融屋は裏で何があるか分からないんだね。
(私への心配のコメントはなかった。普通は心配するでしょ!)
しかし、彼らには何事もなかったように振舞った。
次に会った時、「お見舞い」と言ってお菓子をあげた。
その後、2階の社長も従業員も親しげに挨拶してくれるようになった。
それから1年位して社長が引っ越しの挨拶に来た。
「3年位経つと税務署の査察が入るので場所を変える」という。
そして私にウイスキィーをくれた。(私はウイスキーを飲まない。でも社長の気遣いを嬉しく思い、好物の気持ちになって)
「まー、戴いていいのかしら、ありがとうございます。でも寂しくなるわ、また近くに来たら顔を見せて下さいネ」と言って、たまたまあった頂き物のチョコレートをあげた。
突然の事でお返しが何もなかった。
社長はわざわざ引っ越しの挨拶に来てくれたんだ。ウイスキーまで持って、
私もお2階さんに慣れてきたし、こういう雰囲気だと、これから先、色々なお話が聞けて、私の知らない世界も知れたのに。
引っ越しだって、「アー残念」
従業員の話では、「社長は○○の大地主の息子なんだ」という。
真実の程は分からないけれど、○○地区に社長の名前と同じ大地主がいることは聞いたことがある。(がその地主と関係があるのかは分からない)
社長は何処に引っ越すとかは言わない。私も聞かなかった。
その後の消息は分からない。
従業員はこれからの人生どんな道を歩くんだろう?
社長よりも若い従業員の事が心配に思えた。