ギャンブルにはまった男性 1

当社の近く、お風呂なしのアパートの1室を借りて頂いている49歳の男性がいる。

 

その男性は当社から100mぐらい離れた所の1軒家に母親と2人で住んでいたが、

母親が亡くなり、自宅を売ったので、アパートを借りて1人暮らしを始めた。

 

彼の仕事は良く知られた運送会社の配達人だ。

私が管理している所の入居者さんのお家賃は全て振り込みですが、たまに「持参したい」と言う賃借人さんがいる。

 

彼は当社が近いせいもあって、お家賃を持参したいと言って、毎月持って来る。

 

所が、全額を支払えない事がたびたびで、私は不審に思った。

(彼は母親の死後、相続人は彼しかいないのですから、自宅を売ってかなりのお金を手にしたはずです。そのお金はどうしたの?と思う)

 

そして、彼に尋ねた。

 

すると、彼は色々自身の事を話すようになった。

 

彼は都内のある有名私立大学の理学部を卒業している。

背は普通より少し低く、細身で顔立ちも普通で、穏やかな雰囲気の男性です。

目立った派手な所はなく、大勢の人の中では彼の地味さが影響して、その存在を忘れてしまいそう。

卒業したときは、それなりの有名な会社にも勤め順調な人生を送るはずだったが、

パチンコやスロットといったギャンブルにはまり、やめられなくなったとか。

 

消費者金融にも手を出し、とうとう会社も辞めることになったらしい。

彼の話ぶりを聞いていると、頭の良い人だと思った。

数字にも強く、おとなしい人でギャンブル依存症にはとても見えない。

 

「亡くなった母からは、お前は頭の中のねじの1本が曲がっている」

とよく言われた。と言う。

 

家を売ったお金は借金返済で消えてしまった(相当な額です。売った跡地には、今2軒の家が建っている)

 

しかし、その後もやめられない。今もやめられない。もうこれは病気です。

 

「あなたの今の状況は病気だと思う。カウンセリングを受けるとか、ギャンブル依存症を治す気持ちはないの?」と聞くと

 

「今の仕事の会社に知られたくないし、この事は秘密にしておきたい」

 

「自分で、やめるという強い気持ちを持てるなら良いけれど、自宅を無くし、アパートに移り住む事になったのも、ギャンブルが原因でしょ?

それでもやめられない自分をどう思うのかしら?」

 

「頭の中のねじが1本が曲がっているから仕方がない」

 

「それは、自分の心に対して真正面から向き合おうとしない、ごまかしの言い訳じゃないかしら?それでは、この先も借金まみれの生活が続く事になるわよ。

それでいいの?

あなたは頭も良いのだから、それ位の事は分かるでしょ」

 

「はい、わかります」

 

(私は、どうして?と言う言葉が頭の中をグルグルした。

 

彼は結婚歴がなく、友人も恋人もいない。一人っ子だし、守るべき人もいない。

きっと、彼の心の中には人生に対して何かやりきれない思いや、絶望感があるように思えた。それをギャンブルで紛らわせているのでは?

それを招いたのは自分自身だ。

そうした現状を打破しようという強い気持ちが感じられない)

 

彼は、今まで誰にも話せなかった事を、私に話せるようになった事で、家賃を持って来る度に胸の内を話すようになっていた。

 

少しでも彼の気持ちが楽になるのなら、話の聞き役になるのは構わなかったけれど、それが問題解決には繋がらなかった。

堂々巡りをしているのだ。

 

私は相槌を打つだけだった。